日本は豊かな国だと信じる人の「大いなる誤解」

日本は豊かな国だと信じる人の「大いなる誤解」

 日本型経営は数字を見ず合理的経営ができない

出口 治明 : APU(立命館アジア太平洋大学)学長 / 上野 千鶴子 : 東京大学名誉教授

 

・・・東洋経済オンラインから、”大変、的を得た内容の記事”をみつけましたので、ここに抜粋して(一部省略)ご紹介します(2021/01/08)。

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日本の1人当たりGDPはシンガポールに劣る

 

出口 治明(以下、出口):この30年間で日本の名目GDP(国内総生産)の世界シェアは最も高かった時の半分以下になりました。国民1人当たりの名目GDPも2000年には2位でしたが、このあとずっと下降し続けて2018年には26位まで落ちています。

日本がどんどん貧しくなっていることは確かなのですが、名目GDPではまだ世界3位だから、自分たちはお金持ちだと錯覚しています。名目GDPが大きくなるのは人口が多いからにすぎません。さらに労働生産性では、1970年に比較統計を取り始めてからずっとG7(主要7カ国)で最低です。

(一部省略)

出口:より実態を表わす1人当たり購買力平価GDPを見ると、シンガポールはおろか、日本は香港にも台湾にも抜かれていて、お隣りの韓国とほぼ横一線の状態です。G7では最下位です。

上野:日本は人口小国になったらシンガポール型を目指せばいいというシナリオももはや実現可能性は低くなっている。つまり貧しくなっていくしかないのでしょうか。

出口:日本経済がこのように停滞しているのは、製造業の工場モデルに過剰適応した男性の長時間労働という働き方を変えることができなかったからだと思います。働き方が変わっていたら、日本はもっといい社会になって、生産性も上がっていたはずです。働き方がほとんど変わらなかったことが日本社会の根源的な問題ではないでしょうか。

上野:言わせてください。女性にとっては、労働状況は変わっていないどころか悪化しています。

出口:その通りです。121位ショックが象徴的ですが、女性の地位は下がってきています。

上野:私と出口さんの共通認識は働き方が変わらなくては、働き方を変えなくては、です。出口さんはかねてから、新卒一括採用、終身雇用制、年功序列給、定年制をやめることを提言しておられます。

 

日本型経営は人口増と高度成長なしに成り立たない

 

出口:このワンセットの労働慣行が日本型経営を支えたと認識しています。しかしこのガラパゴス的な慣行は、人口の増加と高度成長という2つの前提条件が揃わないと成り立たない仕組みでもあるのです。

上野:私はこれにもう1つ加えたい。企業内労働組合です。労働者を守るべき組合がそれぞれの企業内で組織されたことから、企業との共存共栄で生き残ってきました労働者の味方というよりも企業の共犯者です。

出口:日本生命に入社した頃に、酒の席では、労働組合のことを考えすぎる会社と、会社以上に会社の経営を考えすぎる労働組合が団体交渉をしているのは、何か変ではないかとよく話していました。

上野:労働組合のリーダー経験者は企業の出世コースでしたね。人事管理が得意ですから、経営者に向いています。

出口:そういう面が間違いなくありますね。日本生命でも組合の幹部は出世コースです。

上野:労働組合はフェミニズムの敵でもありました。日本型経営は女性の犠牲のもとに成り立っていたと、ジェンダー研究では結論が出ています。女性を構造的・組織的に排除する効果があるからです。

労働組合は、人口が増えていた時期に失業率を抑えて、完全雇用に近い状態を達成したと言いますが、それができたのは、女を労働市場から排除したからです。女が労働市場から排除されていなければ、失業率はもっと高かったでしょう。

長時間労働や年功序列などの日本型雇用慣行がやめられないのは、過去に成功体験があるからだとおっしゃる人が多いのです。だからその頃と同じことを続けていると。

でも、本当にそうなんでしょうか? それだって誰にとっての成功だったのか。女性にとっては抑圧だったのかもしれません。

出口:成功体験だったかどうかは別として、人間は一度考えの枠組みができてしまうと、なかなか変えられないということだと思います。

上野:惰性ですね。成功体験があると、自然とその状況に依存することは、日本に限らずどの国の社会にもあります。

出口:無意識の偏見がずっとあるような気がしています。たまたま戦後うまく復興ができたから、日本型経営が正しいという偏見が強化されたのではないでしょうか。

でも、戦後の日本の高度成長を計量的に分析すれば、ほとんどが人口増と、朝鮮戦争による特需などの偶然が重なったことが実は大きいのです。

上野:歴史の偶然のおかげですね。

出口:そうです。必ずしも日本型経営が優れていたからではありません。日本型経営が優れていたら、この30年間、正社員ベースで2000時間以上働いて平均1パーセントしか成長しないことの説明がつきません。

欧米は数百時間少ない労働時間で平均2.5パーセント成長しているわけですから、真実は、むしろ日本型経営は劣っていると理解すべきです。

 

数字を見ない、合理的経営ができない経営者

 

上野:経済学者の川口章さんが、差別型企業と平等型企業を比較した実証研究で、平等型企業のほうが売上高経常利益率は高いことを明らかにしました。他にも、女性差別が少なく女性役員がいるような企業のほうが、生産性が高く、パフォーマンスがいいという実証データが上がっています。

それなら差別型企業は内部改革をして平等型企業に移行するかというと、ノー。なぜなら、変わる動機がないからだと言います。

出口:僕が働いていた日本生命はずっと業界1位でした。でも一度だけ瞬間的に第一生命に抜かれたことがあって、その時、「これは看過できない」と役員がコメントしていました。

それで何をしたかというと、別の生命保険会社を買収して1位を取り戻したのです。そして伝統を守ったということでした。

上野:めちゃくちゃ内向きの発想ですね。企業は、経済合理性を追求するものではないのですか。

出口:これは僕自身よくわからないところもありますが、仮説の1つは、経営者はそれほど経済合理性を考えていないということです。

上野:それでは、企業は何をもとに動いているんでしょう?

出口:一般に企業は経済合理性、つまり数字(トップラインやボトムライン)を見て動くと考えられていますが、日本の経営者は、グローバル企業の経営者に比べれば、数字よりも業界内の序列やシェアに関心を向ける人が多いのではないでしょうか。

上野:企業のトップや管理職の人に、「どうしてこんな不合理な慣習が続いているのですか?」と聞いても、彼らには危機感があるとは思えない。それがどう考えても不思議です。

出口:危機感がないのは、今までと同じことをやるほうが楽だからじゃないですか。今までと同じことをやって、同じ給与がもらえるのであれば人はなかなか変わらないように思います。

上野:追い詰められていることがわからないから?

出口:国際比較した数字をきちんと見ないからです。

上野:国内しか見ないということですか?

出口:はい。前年の売り上げが300億円で、今年は310億円。国内しか見ていなかったら、まあこんなもんやろと。働いている人たちも同じことをやり続けて同じ給与がもらえるのであれば仕事を変えようとはしない。

 

完全に閉じた世界しか見ていない

 

上野:実質所得は減り続けていますよ。

出口:その通りで、前述した1人当たり購買力平価GDPでみれば、絶対額がG7最下位であるばかりではなく、伸び率も小さい。つまりアメリカやドイツとの差は開いているのです。でも、そうしたデータを誰もみない。

加えて、物価も上がりませんから、そんなに痛みを感じないのでしょう。経営者は、業界何位とか業界シェア、社会的地位、たとえば経団連(日本経済団体連合会)企業だとか、そういうことを見て満足しています。

経常利益率や生産性の向上、あるいは従業員の給与を上げれば初めて合理的経営といえるのですが、そういう数字はあまり真剣に見ようとしないから、合理的な経営が行なえないのです。平等型企業のほうがはるかにパフォーマンスはよくても、不幸なことにそれほど大きくないので、大企業にとっては痛くもかゆくもないのでしょうね。

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上野:平等型企業は新興のベンチャー等に多く、ビジネスの規模が小さいですね。

出口:アメリカのGAFAのように規模もガンガン伸びて、古い企業を淘汰していけばみんなが必死になるのですが、現状だと、ええことやっているけれど、あれは小さい会社やからできることやで、と安心しきっています。

上野:おっしゃる通りだと思います。完全に閉じた世界しか見ていません。同じような話をある大企業の会長からも聞いたことがあるんです。彼も日本の大企業は横並びでお互いしか見ていない。グローバル企業の利益率は平均15パーセントだけど、日本の大企業の利益率は平均4~5パーセントと。比べものにならない。

出口:利益率はグローバル企業の3割にも満たない。

上野:それでも横並びでしか見ていないから、これでいいんだと。お互いに低位安定しているのが日本だ、とおっしゃっていました。

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<私見>。。。日本の現状について、この内容記事は大変分かりやすく指摘されています。

日本の政治もさることながら、現在の経営者も内向きということで、失われた30年が40年へ向かっていくのかと思うと、日本の将来が不安ですね。

昔、大企業は、日本人の留学生をうまく活用出来ていなかった。私はその経緯を実際に見て知っていますが、その間に、韓国や中国に追い抜かれていったのです。

この留学サービスを始めたのも、実は、そういった日本の現状への不安の中、子供達へ将来の希望を託したいと思ったのがきっかけです。

 

スイスジャパンサポート代表

近藤 美穂